旅人教師@アジ亜太郎

道があるなら陸路で行こう。 ~貧乏人の一人旅~

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1990年代インド6 一人旅 ~デリー・カルカッタ間 自転車の旅~

~壮大な冒険心~

 

 

 ムビーンに会えそうなのは明日。

 ムビーンに会えるかと思ってホテルもチェックアウトしてきたし。

 そろそろどこか泊まれるところを探さないとやばいかなあ。

 旅の初めのころ、滞在するホテルの重要さをあまり考えていなかった。すぐにどっか泊まるとこみつかるやろ、くらいののんきなもんだった。

今となっては、自分の寝床が確保できているかどうかが、旅ではもっとも重要なことだと思う。

安心して一泊できる所の確保。

 そこからやっとその町での旅が始まるなあ、と思う。

 

 到着したとき、すしづめ状態のインディラガンディー空港で少しだけ話した男がいた。

その名も、サイクル男だ。

 サイクル男は、少し大きめのスポーツタイプの折りたたみ式自転車を抱えていた。

 聞くと

「デリーからカルカッタまで自転車で行こうと思う。」

って。

 

なんと!おそろしい発想…。

 

 ここはインドやで。

 日本でも厳しいやろうに…。

 

 サイクルマンよ、ここはインドやで。

 広いんやで。

 カルカッタは遠いで~。直線距離で1300キロはあんで。

 

 茨城県から山口県の端っこまで、まっすぐ測ってみたけど、そんでも900キロやで。

 道もたぶん、ボコボコ道やで。

 

 俺は、このときカルカッタは遠いやろーということしか思ってなかったが、ほんまにインドは思っているよりもでかい。

 俺たちは、日本に住んでるから、距離の感覚は小さく育ってきている。

 インドを旅したら、まず人の多さと、その国のでかさを実感する。

 

 俺は、この旅の中で、電車でアグラーから、ベナレスまで行った。

 デリー~カルカッタ間の半分以下の距離だが、電車で12時間を要した。

 そのかん、電車から見える景色は、わりと平野が多かった。

 広大な赤土の荒野がどこまでも続いていた。

 地平線まできれいにみえる。

 赤土には、ところどころに緑の樹木が生えており、水牛の群れだったり、鹿だったりが、のんびりと暮していた。

 ビルが建っている景色はなかった。国道のような道もあるんだろうが、鉄道沿いから舗装されている道路があるような景色は、ほとんど見られなかった。

 

 サイクル男は、それも調べた上のことだろうが、それにしてもすごい冒険心だと思う。

 一人旅では、たまに壮大な冒険心を持つ男と出会うことがある。

 

 そんな男たちは、大きく二つにわかれる。

 

 「入念に準備してくる派」と、「まあまあなんとかなるっしょ派」である。

 

 壮大な冒険心野郎たちは、入念派が多い。

 まあまあ派の人は旅のスケールも「まあまあ」に収まっている。

 

 ちなみに俺は、まあまあ野郎だ。

 

 スケールも準備もまあまあだ。

 

 話を戻す。

「到着したとき、すしづめ状態のインディラガンディー空港で少しだけ話した男がいた。その名も、サイクル男だ。サイクル男は、少し大きめのスポーツタイプの折りたたみ式自転車を抱えていた。」

 この男。

 まだこんな所にいてるやん!

 

 コンノートプレイスのそばのアベニューで、自転車にまたがっていた。

 

 「おーい!サイクルマン!」

 と声をかけた。

 

 「ああ、きみか。空港で出会った。」

 

 「なにしてんのこんなとこで?もうデリーは出たと思ってたわ。」

 

 「いやあ……。すぐに出るつもりだったけどさ、道路の標識がさあ、何書いてあるのかわかんなくて。どっちに行けばいいのか……。」

 

 道路標識を見ても、たしかに何が書いてあるのかわからん。アルファベットやらヒンディー語やら、地名も見てもよーわからん。

「方位磁石は?」

 

「いや、磁石持ってないんだよね…。」

 

って、はよどっかで買ーてこいや!

 

 おまえさんは、チャリやねんから磁石いるやろ!

 俺でも磁石は腰にぶら下げとんで。

 

 サイクルマンは、壮大な冒険心の、準備は「まあまあ派」だった。

 

 いっちゃんあかんやつやん。

 

 イメージだけ壮大なっとるやん。

「とりあえず、こっち行ってみるわ。じゃあ。」

 

 サイクルマンは「とりあえず」行った。

 

 その後は、彼と出会うことはなかった。サイクルマンがどんな旅をしたのか、未だに気になっている。

 

 今日の宿を求めてコンノートプレイスから出ようとしたとき、柴田さんという男と出会った。関西学院大の四回生だ。

「泊まるとこ探してるんなら、俺の部屋にくるか?」

 

 柴田さんもなかなか変わっている。

そもそも、出会ったばっかりのやつを部屋に泊めてもいい、と思うか。

そして俺も

「ほな、泊めてもらうわ。」

と返事した。

 俺も変わっている。

 

 柴田さんは、インドを一周してきた男だ。もうデリーまで戻ってきたので、あとはフライトの日を待つだけだそうだ。

 

 この男、自信があるのか若干えらそうな、ものいいなのが鼻につく。

「おまえさあ、英語もできないのに何で外国に来たの?」

 来たらあかんのかい!

 別に英語くらいええがな!

 外国行きたかったからやんけ。

 インド行きたかったからじゃ~!

 

「一人旅はまずホテル確保だよ。よくホテルなしで荷物持ってウロウロしてたねえ。」

 旅の仕方を教えてくれてんのはありがたいが、なんか下に見られてて素直に聞けん。一晩じゅう、旅のことを自慢交じりに教えてくれた。

 

ホテル探す手間も省けたし。まあえっか。

旅の始まりの手ほどきとして聞いておこう。

明日はムビーンに会えるやろかな。

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